最近、「若い世代は日本語力が低下している」という声を耳にすることが増えてきました。
(※ここで“低下”という表現が本当に適切かどうかは一旦置いておきます。)
とくに、ビジネスの現場では、「伝わりにくい」「表現が曖昧だ」といった課題が浮き彫りになっています。企業の人材育成に携わる中で、もどかしさを感じている方も多いのではないでしょうか。私自身も、新入社員や若手社員と接する中で、言葉の使い方やコミュニケーションスタイルの変化を肌で感じています。
では、なぜこのような変化が起きているのでしょうか?
そして、それが仕事の現場にどのような影響を与えているのか?
今回は、その点について考えてみたいと思います。
短く伝える文化が当たり前に
今の若者世代は、LINEやXなどのSNSで、日常的に短文でテンポよくやり取りしています。
例えば…
- 「り(=了解)」
- 「おけ(=OK)」
- 絵文字やスタンプで感情を伝える
- 「それな」「まぁまぁ」など、文脈に依存した表現
これらのやり取りは、友人同士では問題なく通じますが、ビジネスの場では意図が伝わりにくく、誤解を生む原因になります。
非言語コミュニケーションへの過信
ある企業でコミュニケーション研修を行った際、「仕事では、意図を明確に伝えることが大切」と伝えたところ、若手社員から「でも、雰囲気や空気感で伝わることもありますよね?」という反応がありました。
確かに、表情や身振りといった非言語的な要素も重要です。しかし、オンラインミーティングでは表情が見えづらく、対面でもリアクションが少ない場合もあります。
つまり、非言語だけでは伝わらない場面が増えており、曖昧な表現は誤解を生みやすくなります。
そのため、言葉で丁寧に意図を伝える力が不可欠なのです。
曖昧な言葉の多用
研修のグループディスカッションでは、よく「まぁいい感じ」「なんか違うかも」といった曖昧な表現が出てきます。
こうした表現は一見伝わっているように見えても、実際には内容がぼやけてしまい、受け手は判断に迷ってしまいます。
例えば…
×:「まぁ、いい感じですね」
→ どこが良いのか、どう良いのかがわからず、受け手は疑問だらけ。
〇:「ターゲットに合っていて、コストも抑えられるので良いと思います」
→ 評価の軸と理由が伝わるため、納得感が生まれます。
文脈に頼るコミュニケーションの落とし穴
「ヤバい」「ウケる」など、文脈によって意味が変わる言葉を多用するのも、今の若者世代の特徴です。
例えば…
- 「ヤバい」→ すごく良い/ピンチ/驚き(文脈次第)
- 「ウケる」→ 面白い/バカにしている
これらの表現は、友達同士なら「なんとなく伝わる」ものの、ビジネスの現場では誤解を生みやすくなります。特にLINEやテキストベースでのやり取りでは、トーンや表情が伝わらないため、「言葉で伝える力」がより求められます。
なぜ、このような変化が起きているのか?
この変化の要因はいくつか考えられます。特に次の3点が大きいと私は感じています。
- SNS・チャット文化の定着
短く・早く伝えることが優先され、背景説明や丁寧な表現が省かれがちに。 - 教育環境の変化
ディスカッション型の授業が増えたものの、語彙力や文法の基礎に触れる機会が減少。 - 空気を読む文化
「言わなくてもわかる」というコンテクスト重視の関係性が強調され、言葉で伝える機会が減少。
これらの変化は一概に「悪い」とは言えませんが、社会人として働くうえでは、「通じること」と「伝えること」の違いを意識する必要があります。
職場で実際に起きていること
この変化が、現場でどのような影響を及ぼしているのでしょうか?
- 指示が伝わらず、ミスや差し戻しが増える
- 顧客対応の曖昧さが信頼低下に繋がる
- 情報共有の齟齬がチームワークを損なう
- 自分の成果や意見が正しく伝わらず、評価に影響が出る
こうした小さな「伝わらない」が積み重なることで、個人のキャリアにも大きく関わってきます。
「伝える力」は、誰でも磨ける
では、どうすればこの課題に対処できるのでしょうか?
大切なのは、「具体的に・丁寧に・理由を添えて」伝えることです。ほんの少し言い回しを変えるだけでも、相手の理解度は大きく変わります。次の3つのポイントを意識してみましょう。
- 主語と述語を明確にする
- 理由や背景を説明する
- 抽象的な表現ではなく、具体的な言葉を選ぶ
これらを習慣化することで、「伝える力」は確実に向上します。
まとめ:「察する」から「伝え合う」文化へ
言葉は時代とともに変化します。だからこそ、「若い世代はできていない」と一概に批判するのではなく、私たち自身もコミュニケーションの仕方を見直し、アップデートしていくことが大切です。
これからの職場では、言葉を使って意図をきちんと伝える力が、ますます重要になるでしょう。特に、「察する力」よりも「伝える力」が求められる場面が増えていくはずです。
私たち育成担当者ができることは、まず自らが「伝える」姿勢を示し、若手にもその大切さを教えることです。そして、共に言葉の力を育てていくことが、より良い職場環境を作り上げる第一歩だと信じています。