4月に迎えた新入社員たちが、現場に少しずつ馴染みはじめるこの時期。育成担当者によっては、「育成疲れ」が出てくる頃でもありますね。リーダーの方からそのような悩みも出てくる時期になりました。夏は、育成の振り返りと、次の一手を考えるためのちょうどよい節目でもあります。
そんな中で、新入社員研修を再考するとき、私が特に大切にしてきたのが「ビジネスマナーの伝え方」の見直しです。
形式をなぞるだけの指導ではなく、その“奥にある意味”をどう伝えるか。
それは、キャリア形成を支援する立場として、常に自分にも問いかけてきたテーマです。
Z世代からの、本質的な問いかけ
キャリア支援や研修の現場で出会う若手たちは、実に素直で本質的な問いを投げかけてきます。
- 「なぜ始業の10分前に来ないといけないんですか?」
- 「なぜ上司より先に帰りづらい雰囲気があるんですか?」
- 「なぜメモを取らなきゃいけないんですか?」
私たちが「当たり前」だと思っていることに、彼らはちゃんと立ち止まり、考えようとしている。
その姿勢に、私はいつもはっとさせられてきました。
「そういうものだから」と返した瞬間、対話は終わる
質問の奥には、「知りたい」「理解したい」「納得して動きたい」という意欲があります。
それに対して、「社会人としての常識だから」「昔からそうだから」「そういうものだから」と返してしまえば、そこで対話は終わってしまいます。相手の心の扉は、音もなく閉じられてしまうのです。
育成に関わる私たちが向き合うべきは、「説明できるかどうか」ではなく「相手が納得できるかどうか」。
そのためには、私たち自身がその“ルール”の意味を見直し、言語化できるようにしておくことが欠かせません。
実践的なマネジメントのヒント
まずは、日々の新人指導やルール説明の場面で、少しアプローチを変えてみましょう。
指導の場面で
Before: 「そういうものだから覚えておいて」
After: 「この習慣には○○という理由があって、結果として△△のメリットが生まれるんだよ」
ルール説明の場面で
Before: 「これは、会社の決まりだから従って」
After: 「このルールの背景には××があり、チーム全体の効率向上につながっているんだよ」
自分自身への問い直しが育成の質を上げる
Z世代の問いは、リーダーである私たち自身の「自分軸」を強化する機会でもあります。
- 「なぜこれを大事にしているのか?」
- 「これは今の働き方にも合っているのか?」
- 「この習慣は、どんな成長や信頼関係に寄与するのか?」
こうした問いを、自分の中で棚卸しすることは、リーダーとしての視野を広げてくれます。説明できないルールは、もしかしたら今の時代には合っていないのかもしれません。でも、それに気づけるのもまた、私たち育成側の“成長のタイミング”なのではないでしょうか。
マナー指導は価値観のすり合わせ
マナーやルールを伝えることは、本来「こうしなさい」と押しつけることではありません。
それは、組織で働くうえでの価値観や考え方を、互いにすり合わせていくための対話の機会です。
ただ型を教えるのではなく、その背景や意味を一緒に探っていく。これは、キャリア支援における基本的なスタンスでもあり、Z世代との信頼関係を築くうえでも欠かせないアプローチだと感じています。
今だからこそ問い直したいこと
夏というこの時期にこそ、忙しさのなかで流してしまいがちな“教えること”について、一度立ち止まってみませんか?
たとえば─
背景や意味をかみ砕いて伝える
- 「なぜそうするのか?」を、自分の言葉で丁寧に伝えられるように準備しておく
- 組織として、チームとして、何を大切にしているかを明確にする
相手の価値観や目指す姿とつなげる
- 「その行動が、あなたの目指す未来にどうつながっているか」
- 「どんな社会人になりたいのか」といった視点で話す
一方通行ではなく、対話を大切にする
- 「質問=抵抗」と捉えず、「質問=関心の表れ」として歓迎する
- 正解を与えるのではなく、問いに一緒に向き合う姿勢を持つ
最後に
「なぜそうする必要があるのか?」という問いは、表面上はマナーやルールの話に見えて、本質的には、「どう働き、どう生きたいのか」というキャリアへの問いかけでもあります。
だからこそ、教える側の私たちも、その問いに向き合うことで、自分自身の価値観やキャリア観を見つめ直すことになります。育成とは、知識やルールを一方的に与えることではなく、“ともに考える姿勢”を育むことです
そんな問いに出会ったときは、「どう返すか」ではなく、「どう一緒に考えられるか」という視点で関わってみませんか。