「退職したい」と言われたとき—
あなたはどう受け止めますか?
部下から「退職したい」と打ち明けられたとき、動揺しない管理職はいないと思います。私自身もこれまでに何度かその場面に立ち会ってきましたが、信頼関係を築いてきた相手であればあるほど、胸の奥がぎゅっとなるような、複雑な気持ちになるものでした。「なぜこのタイミングで…?」 「もっとできることがあったんじゃないか…?」そんな思いがぐるぐる巡り、時に寂しさや悔しさが混ざることもありました。
もちろん、自分が「辞めたい」と申し出た立場だったときには、上司に同じような感情を抱かせていたのだろうと、今では思います。管理職という立場にあると、個人の想いに寄り添いたいと思う反面、チーム体制や業務の影響など現実的な課題も頭をよぎります。つい、「どうしたら残ってもらえるか」と引き留める方向に意識が向いてしまうこともありますが…
本当に大切なのは、まず「辞めたい」と感じるまでに何があったのか、その背景や気持ちにしっかり耳を傾けること。
頭ではわかっていても、感情が先に動いてしまうからこそ、そこに意識的に立ち返る姿勢が求められるのだと思います。
人事に異動してから、私は人事の立場として退職希望者との面談も経験してきました。その中で気づいたのは、退職を決意している本人はすでに心の中で結論を出していることが多いという点です。面談をする際、引き止めるつもりで話を進めるのではなく、あくまで相手の気持ちに寄り添う姿勢が大切だと感じています。
今日は、部下から「辞めたい」と言われた際にどのように向き合うべきか、私の経験を交えてお話ししたいと思います。
目的は「引き止め」ではなく「背景を知ること」
面談を始める際、最初に私が伝えるのはこのような言葉です。
「あなたが辞めたいと思った理由をすぐに否定したり、引き止めたりするつもりはありません。ただ、ここに至るまでにどんな思いがあったのか、どんなことに悩んできたのか、もしよければ聞かせてください。」
この一言で、相手は少しずつ心を開きやすくなります。「引き止め」ではなく「理解したい」という姿勢で接することで、本音を聞くことができるのです。
本音の裏には「期待」や「信頼」がある
退職を申し出るというのは、非常に大きな決断であり、心の中で何度も葛藤してきた結果だと言えます。その決意に至るまで、部下は「どう伝えようか」「どんな風に声をかけようか」と考えに考えた末に言葉にしていることが多いのです。
そして、その裏には「もっとこうしてほしかった」「期待していたのに」「誰かに気づいてほしかった」といった、未解決の感情が隠れている場合があります。「辞めたい」は、悲鳴やSOSと受け取ることもできます。
だからこそ、「辞めたい」という言葉だけに焦点を当てるのではなく、その背景にある感情に耳を傾けることが、管理職としての重要な役割だと私は思うのです。
「引き止めるべきか」は聴いたあとに判断する
もちろん、すべての退職希望に対して引き止めるべきだというわけではありません。話をよく聞き、「本人の中で結論が出ている」「方向性の違いが明確」と感じたときには、潔く送り出すことも大切です。しかし、「もし環境さえ整えば続けたかった」「誰にも相談できなかった」という場合も少なくないものです。
そういった背景を聞いた後、「まだ何かできることがあるかもしれない」と感じたなら、ぜひ一緒にその道を模索してみることをお勧めします。
最後に:退職はゴールではなく、対話のスタートかもしれない
「辞めたい」と言われた瞬間、どうしても「終わり」と感じてしまいがちですが、その時こそが「本音の対話」の始まりであることが多いのです。退職を決意するまでの過程を知ることで、部下が何に苦しみ、何を求めていたのかを理解できると、組織改善や自分自身の成長にもつながります。
大切なのは、その一歩を踏み出して対話を続けることです。退職の申し出が、むしろ新たな気づきや成長のチャンスとなることもあります。
そのプロセスこそがリーダーとしての真価を問われる場面であり、最終的に部下がどのような決断を下しても、その背後にある思いを尊重し、共に歩む姿勢を持ち続けることが、真のリーダーシップだと私は信じています。