リーダーとして働いていると、誰しも一度はこんな場面に直面するのではないでしょうか。
「上からの指示がどうしても納得できない…。でも、部下には前向きに伝えなきゃいけない。そのたびに、自分の心がすり減っていく気がする」
このような葛藤を抱えているリーダーの方は、決して少なくありません。
私自身も、会社員時代に何度もこのジレンマに向き合い、悩み、試行錯誤を重ねてきました。
今日は、リーダーの方からよく寄せられるこんな葛藤に寄り添ってみたいと思います。
「また指示が変わった…」上司の言葉にモヤモヤ
私はキャリア支援の現場で、様々なリーダーの方と接していますが、私自身の「理想の上司像」は、過去の経験から培われたものです。そこには、見習いたい姿もあれば、反面教師にしたい姿もありました。
たとえば、現場マネージャーとして働いていた頃のこと。ある日、本部から「これを全店舗で一斉にやってください」という一方的な指示が届きました。内容は、現場のオペレーションやお客様対応の流れを無視した、まるで“机上の空論”。私の中には強い違和感がありました。
その時、本部の上司からかけられた言葉が、今でも鮮明に心に残っています。
「自分もよく分かってないんだけど、上から言われたから、とりあえずやって。」
この言葉を聞いた瞬間、私はとても微妙な気持ちになりました。同時に、チームの空気も一気に重くなったのを覚えています。
「どうせまた変わるんでしょ」 「言われたからやるだけでしょ」「なんのためにやるの?」
…指示の意味や価値を、誰も見出せなくなってしまったんです。これは、自分に対する信頼はもちろんのこと、会社への不信感にも繋がりかねないことです。
この経験から、私はひとつ痛感しました。リーダーの言葉が曖昧だと、チームはもっと迷ってしまうということを。そして、「もし自分がリーダーになった時には、この言葉は言わないようにしよう」と心に誓いました。
たとえ自分が納得できていない指示でも、ただそのまま伝えるだけでは、「チームの未来を創る力」にはなりません。むしろ、チームを混乱させ、モチベーションを下げてしまうことすらあります。
自分なりの意味付け
それ以降、同じような経験を重ねるたび、私はひとつの問いを自分に投げかけるようになりました。
- なぜ、いまこの指示が出たのだろう?
- 会社は、どんな未来を描こうとしているのだろう?
その答えがどうしても見つからないときは、上司や他部署に聞きにいくこともありました。ときには「そんなに深く考えなくていいよ」と面倒くさがられて、苦笑いされることもありましたが、私は「自分の言葉で伝える」ことにこだわりたかったんですよね。
これは、かつて私がモヤモヤした「とりあえずやって」の言葉を、自分のチームにはかけたくないという想いからでした。
言葉に“自分らしさ”を宿す
ある日、また現場の負荷が高くなるような指示が出ました。でもその背景には、「顧客満足度向上」という目的があったんです。私は、そこに自分なりの納得点を見出し、チームにはこう伝えました。
「確かに大変にはなるけれど、これは私たちの現場力が期待されている証でもある。 信頼をもっと広げていくチャンスなんだと思ってる」
何度も自分なりの言葉を伝えていく過程で、チームの雰囲気は明らかに変わりました。「効率化の方法を一緒に考えてみます」「お客様対応の流れも見直せそうです」と、前向きな対話が自然と生まれたのです。
この時、「ああ、これだ!」と思いました。私がかつて上司から聞きたかったのは、まさにこういう「意味付け」や「翻訳」の言葉だったのだと。自分が上司側になったとき、チームにとっての「翻訳者」であろうと決めた瞬間でした。
翻訳する力
では、どうすれば“伝書鳩”ではなく、信頼される伝え手になれるのでしょうか?
ポイント①:会社の意図を深く考える
「なぜこの方向に進むのか?」背景にある目的や理由を探る視点を持つ。
ポイント②:自分が納得できる“落とし所”を見つける
すべてに納得する必要はありません。自分が「ここなら伝えられる」と思えるポイントを見つけましょう。
ポイント③:そのポイントを“自分の言葉”に置き換えて伝える
会社の言葉をそのまま伝えるのではなく、自分が腹落ちした表現にすることで、チームの信頼に繋がります。
自分の言葉で語るからこそ届く
「自分なりに意味づけしてから伝える」こと。それは、無理にポジティブになることではありません。不安やモヤモヤを抱えたままでも、「私はどう考えるか?」に向き合うことが、“自分軸”につながると私は思っています。
心がすり減りそうなときは、こんな工夫をしてみてください。
- 納得できない理由をノートに書き出す
- 信頼できる人にだけ、率直な気持ちを話してみる
- 「ここはこういう意味があるらしいよ」と、一歩踏み込んで伝える
納得できない気持ちをすべて隠す必要はありません。伝え方に工夫をすれば、共感に変わることもあります。
最後に:迷いは、リーダーの強さの証
リーダーであるあなたが感じる迷いや葛藤は、決して弱さではありません。それは、チームや仕事に本気で向き合っているからこそ感じるもの。
そして、「自分の言葉で伝える」という選択は、チームのためだけでなく、自分自身を守ることにもつながります。私自身、ただ上からの言葉をそのまま伝えていた頃よりも、自分で意味を考え、自分なりに言葉を選んで伝えるようになってから――社会人としても、人としても、ずっとずっと楽になりました。
伝え方を少し変えるだけで、モヤモヤが整理され、チームでの対話が生まれ、何より「自分で選んだ」と思える実感が、前に進む力になります。迷いながらでも大丈夫。「あなたの言葉」でチームと向き合う姿勢こそが、未来を動かす力になります。
私はこれからも、そんなリーダーの「言えない悩み」に、寄り添える存在でありたいと思っています。