近年、AI技術の進化には目を見張るものがあります。日常生活でも、スケジュール管理やレシピ検索、翻訳、チャットでの相談まで—私たちの暮らしを支えてくれる便利なサービスがどんどん増えています。
カウンセリングの分野でも、「AIができること」は確実に広がっています。自己診断ツールや、気持ちを可視化するアプリ、チャット型の相談窓口など、心のサポートも手軽に受けられる時代になりました。
でも、実際にカウンセリングの現場にいて強く感じるのは、「人だからこそできることが、確かにある」ということです。
今回は、そんな視点から“カウンセリングがAIには代われない理由”について、私なりの想いを綴ってみたいと思います。
言葉にならない気持ちに寄り添うということ
AIは、たしかに言葉の内容や声のトーン、キーワードから感情を推測することが得意です。けれど、沈黙の間や視線の揺れ、ふとした表情の変化、呼吸のリズムの変化……そうした“まだ言葉になっていない(言葉にならない)サイン”を感じ取るのは、人だからこそできることではないでしょうか。
カウンセラーは、目の前の人の「今ここにある空気感」に耳を澄まし、まだうまく言葉にできない想いに、そっと寄り添います。
安心できる「関係性」こそが力になる
人が誰かに話したくなるのって、「正しい答えが欲しいから」だけではないと思います。「この人なら、ちゃんと受け止めてくれそう」そんな信頼があるからこそ、心が自然と開かれていくのではないでしょうか。
カウンセリングは、ただの情報提供ではありません。安心して話せる“関係性”そのものが、心をほどく大きな力になるのです。AIがいくら優秀でも、「自分だけを見てくれている」というぬくもりには、まだ届かないように感じます。
その人だけの背景と、物語を大切にできること
同じような悩みに見えても、その人がそれを抱える理由は、まったく異なるものです。育ってきた環境や価値観、大切にしているもの、過去の経験や人間関係…。一人ひとりに、“その人だけのストーリー”があります。
AIはパターンや傾向を読み取るのは得意ですが、個別の背景に心を寄せながら一緒に考えることには、まだ限界があるように思います。カウンセリングでは、そうした背景に丁寧に耳を傾けながら、その人らしい答えを少しずつ見つけていきます。
“今この瞬間”に生まれる心の変化
ときには特別なアドバイスがなくても、「ちゃんと聞いてもらえた」「わかってもらえた」と感じるだけで、
ふっと心が軽くなる瞬間があります。その感覚は、まさに“人と人とのリアルな関わり”の中でしか生まれないもの。
今この瞬間をともに感じ、見守ってくれる人がいることが、自分を大切にする力へとつながっていくのだと思います。
おわりに
AI技術の進化によって、私たちの暮らしはこれからもどんどん便利になっていくでしょう。
それはとても素晴らしいことだと思います。
でも、心に向き合うときほど、人と人とのあたたかなつながりが必要なのではないでしょうか。
カウンセリングは、話すこと・聴いてもらうことを通して、自分の本当の気持ちと、やさしく向き合っていく時間。
だからこそ、これからも「人にしかできない役割」として、大切にされていくべきものだと私は信じています。